#02 信念を貫く備え人 堀潤 JUN HORI #02 信念を貫く備え人 堀潤 JUN HORI

  • 元NHKアナウンサー
  • ジャーナリスト
  • 社会起業家

NHKを退社して、味わった苦労。
そこで学んだ、「備える」大切さ。

NHK時代、『ニュースウオッチ9』のリポーターとして注目を浴び、経済ニュース番組『Bizスポ』キャスターに抜擢。順風満帆だったキャリアを捨て、独立した堀潤さんは、一時、生活に苦労した経験を持ちます。だからこそ、「備える大切さが身にしみてわかる」と語ります。そんな堀さんにとって、“備え”とは?

備えずに退社し、待っていた貧乏生活

安定を捨て、NHKを退職した堀さん。
独立するにあたっては、きっと十分に準備していたと思うのですが、実際はどうだったのでしょうか?

実は、何も準備してなかったんです。事前に備えていたことは、貯蓄も含め、何もありませんでした。ですから独立後は、無収入になり、友人の実家の屋根裏部屋で暮らしていた時期もあります。当時は、電車賃にも困るほどお金がなく、都心の移動はほとんど徒歩でしていました。

だからこそ、「備える大切さ」は誰よりも身にしみてわかっているつもりです。本当に「備え」がないと、いざというときに、大変ですから。

では、NHKを退職する前年、現在も運営を続けている、ユーザー参加型のニュースサイト『8bitNews』を立ち上げられた理由は・・・?

備えという意識はありませんでした。当時は、自分が担当している番組でお伝えできなかったことを、インターネットを通じて、多くの方々に届けることが目的でした。

しかし退職後、「このニュースサイトが自分の収入源になるかもしれない」と考えをあらためました。ですが、お金がないから何もできない。そんな僕を助けてくれたのは、“人とのつながり”でした。8bitNewsの立ち上げでは、プログラマーやサイト制作者など、周囲が積極的に協力してくれました。だからこそ、自分の道を信じて突き進むことができましたし、ニュースを発信し続けるモチベーションにもなりました。また、クラウドファンディングを実施すれば、多くの方がプロジェクトを支援してくれましたし、日々、SNSを介して届く応援のメッセージも励みになりました。

「居場所」は、セーフティネットになる

そのなかで、備えておくことの“重要性”を感じたのではないでしょうか?

そうですね。独立後、もうだめだと思った瞬間もありましたが、“人とのつながり”がセーフティネットとなり、私を支えてくれました。そのなかで、「居場所」の重要性を痛感しました。

NHK時代、凄惨な事件の容疑者に直接インタビューすることがありました。彼らはみな、異常者には見えず、事件を起こす直前までは私たちと何ら変わらない “普通”の生活を送っていたのだろうと思いました。ふとした時、誰にも相談できず、事件を起こすにいたってしまった。そんな印象を受けました。同じように追い込まれれば誰だって、ということは頭の片隅にいつもありました。自分も幾度となく追い込まれましたが、何が自分を守ったのか。考えた末に辿り着いたのは、「居場所」でした。

「居場所がない」ということは孤独を生み、人を追い込んでしまうこともある。何かリスクをとってやらなければいけないことが、目の前にあるんだとしたら、真っ先に、いざとなったら自分を受け止めてくれる場所をつくっておくべきだと思います。そして、貯金と同じで「居場所」はいきなりは作れないものです。貯金箱にコツコツ貯めるように、居場所も日常の中でコツコツと作るもの。私には、作りあげてきた「居場所」があったことが備えとなり、セーフティネットになりました。その価値をあらためて感じましたね。

リスクを分散することで、
“まさか”の事態に備えている

今後もジャーナリストとして「伝え」続ける上でも、不安やリスクは存在すると思います。
現在、万が一に「備え」ていることはありますか?

いま想定しているリスクとしては、担当している番組の終了や降板などが挙げられると思います。だから僕はその可能性も考慮して、さまざまな準備をしているんです。

僕にとって大事なことは、「伝え続ける」ことであり、“方法”ではありません。8bitNewsもそうですし、独立後は著書も出版していますし、現在ではワークショップやオンラインサロンなども手がけています。そこで発信すると同時に、稼ぐお財布をいくつか持つことで、リスクを分散し、そのバランスを上手に保つことで、“まさか”の事態に「備え」ています。

それに、もともと僕は、やりたいことがたくさんあるんです。気になることがあれば、すぐに現地へ飛んで取材したいですし、日本だけでなく、世界で起こっているニュースを多くの人に届けたいという思いもあります。今年3月に公開されたドキュメンタリー映画『わたしは分断を許さない』(監督・撮影・編集・ナレーション:堀潤)もそのひとつです。シリア、パレスチナ、朝鮮半島、福島など、世界各地で「分断」をテーマに5年間にわたり取材したものを、“映画”という形で発信しました。

独立後も「現場主義」を貫き、自分の言葉でニュースを届けることを大切にしている堀さん。現在はテレビやラジオなど、多数のレギュラーを抱えていますが、成功の要因は何だったとお考えでしょうか?

どんな状況においても、好奇心を失わなかったことかもしれません。それが原動力となり、常に新しいものに触れることで、今日まで前進し続けているような感覚があります。

僕が現場にこだわるのは、個人の思いに寄り添って、「小さな主語」を探したいという欲求があるからです。たとえば「被災地では……」と一括りにするのは簡単ですが、その言葉に傷つく人がいることを僕は知っています。だからできるだけ、小さな主語を探すように努めているんです。

「伝える」ことで支援の輪が広がり、物事が好転して進むケースも多くあります。僕がLINEのアカウントをSNS上で公開しているのも、そのためです。伝えることで、誰かの力になりたいんです。

最後に、堀さんの考える「備えの大切さ」について教えてください。

まさかNHKを辞める日が来るなんて、当時は想像もしていませんでした。仕事も順調で、「備える必要なんてない」とさえ、どこかで思っていました。しかしその結果、独立後にお金がなくて、非常に苦労しました。もっと早くから、準備をしておけばよかったと、いまになって思います。そうすれば、少なくとも都内を歩き回って、ヘトヘトになる、なんて事態は回避できたはずです。

一方で、世の中捨てたもんじゃないなと思いました。NHKを退社して収入がゼロになっても、やりたいことを言葉にしていたら、想いに共感して、助けてくれる人がいたからです。そのなかで、人生においては、ときにリスクを取ることも重要だと感じています。そのためには、しっかりと「備え」ておいた方がいい。僕の場合は、非常に苦労したときもあったけど、良かったのは“人とのつながり”であり、「居場所」を作ってきたこと。これはずっと大切にしていきたいと思います。

Profile
堀潤(ほり・じゅん)


1977年兵庫県生まれ。2001年、アナウンサーとしてNHKに入局。
『ニュースウオッチ9』『Bizスポ』などの報道番組を担当。2012年、市民参加型動画ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、翌年4月に退局。フリーのジャーナリスト・キャスターとして活動を開始し、現在はNPO法人「8bitNews」代表を務める。2020年3月より自身が監督を務めたドキュメンタリー映画『わたしは分断を許さない』が公開。

WRITER:赤坂 匡介

PHOTOGRAPHER:フジイセイヤ